季刊シール&ラベル No.13 秋季号 Autumn 2009

アナログとデジタル、そしてFMスクリーン

イメージセッター出力も“アナログ”に

よくアナログ版、デジタル版という言葉が頻繁に使われるようになってきているが、一般的にアナログ版とはネガフィルムから焼き付けられた版のことで、デジタル版とはCTPで直接描画された版のことをいう事が多い。

その昔、とはいっても十数年ほど前までは、紙の版下を製版用カメラで撮影。そこから出てきたネガフィルムに対してルーペで覗き込みながら、オレンジ色のマスクをカットして、色分けし、アミ入れ等の作業をし、最終ネガフィルムを作成していた。そのやり方が主流であった。

それを、わたしどもではMac(アップル社のパソコン)でAdobeのイラストレータを使い、色分け、面付けを行い、イメージセッターでネガフィルムを出力するというものに。わたしたちは、それだけで十分な“デジタルな気分”に浸っていた。

しかしそれも、今やアナログといわれるようになってしまった。

さて、CTPの仕組みや性能に関しての詳しい説明は各メーカーに任せるとして、CTP樹脂版と従来の樹脂版の違いや、CTPだからできること、またこのシール業界に与えた影響について話をしたいと思う。

極小ドット・細線の再現

従来のネガフィルムから焼き付けるタイプの版では、再現(印刷)できる最小ドットの限界が低かった。その理由は前回号(凸版印刷とドットゲインについて)を参照してもらいたい。

それが、CTPの場合、格段に改善されている。その理由を次にあげる。

  • 樹脂版上のブラックレイヤー層に直接描画する事でUV露光時にフィルムやパキュームシートが不要になり、光の拡散する要素が少なくなる。
  • UV露光時に空気に触れている事により、酸素による硬化阻害が起き、本来硬化して欲しくない部分(周辺部)は硬化されない。

以上のような理由により、理想的なドット形状が得られ、より細かい画像が、より正確に(少ないドットゲインで)再現(印刷)できるようになった。これは、シール印刷(凸版)印刷にとって、革命的な変化である。

従来の樹脂版でも、中間濃度部分などはデータ上で補正(ドットゲインで濃くなる分を薄くする)をする事で、オフセット印刷に近い濃度を表現する事ができた。がしかし、ハイライト部分はデータ上1%に設定しても印刷すると、10%前後になってしまうため、オフセット印刷とは、程遠い状態になってしまう。特にグラデーションが自然に消えていく部分などは、アミがあるところと、ないところの差が大きすぎて、段差(境目の線)が目立ってしまう。これがシール印刷(凸版)の限界であり、「シールだからこんなもんでしょ」といわれ続けてきた。

そのため、ちょっと凝ったデザインでクオリティーを求められると、「凸だと難しいから、オフで」と言う考えが多かったと思う。しかし、現在では印刷機の精度の向上とCTP版の品質向上により、ルーペで眼いても、オフか、凸か判別が難しいシールを見ることができる。

細かい画像(小さい点)を正確に再現できると言うことは、色々なスクリーニング(アミの形状や種類)を使える可能性が広がってくる。すなわち、FMスクリーンの登場である。

AMスクリーンとFMスクリーンの違い

まず、AMスクリーンはAmplitude Modulation(振幅変調)の略で、ドットの大きさで濃度を表現する。ドットの配置(間隔)は一定で、ドットサイズが小さいと薄く、大きいと濃く見える。またドットの配列には角度があり、角度が近いものどうしが重なると干渉縞(モアレ)が発生する。通常は製版時にそれぞれの角度を設定するので、モアレは発生しないが、画像に規則的な柄(シャツのストライプなど)があると発生する場合がある。

次に、FMスクリーンはFrequency Modulation(周波数変調)の略で、ドットの密度で濃度を表現する。基本的には、一定サイズのドットが不規則に配置され、バラバラに散らばっていると薄く、密集していると濃く見える。実際には25μm程度の極小ドットが散りばめられている。(図①)

文字の意味としては、ラジオのAM放送・FM放送と同じである。

従来のアナログ版の場合、仮にFMスクリーンのネガを出力し製版したとしても、25μm程度のドットを正確に印刷する事は不可能に近い。

FMスクリーンの優れた点

AMスクリーンでアミの細い線を印刷した際、線の幅とアミ点の直径が近くなると、点線になってしまう。(図②)

また、アミの角度との関係で直線がギザギザになったり、よじれて見えたりする場合もある。それがFMスクリーンだとドットサイズがより小さく、角度もないので、滑らかな線で表現する事ができる。(図③)

アミの掛け合わせ部分もまるで特色ベタの様に表現する事ができる。(図④)

次に、細かい画像を正確に再現できるCTPだからこそ可能な、凸版間欠輪転機で印刷したサンブルを紹介したい。普段、弊社の版・型を発送する際の荷物には金ネーマーのシールを使っているが、写真の写りが悪いので、以前に白い材質にテスト印刷したものを紹介する。(図⑤参照)

FMスクリーンだと極小文字(2pt)をアミ(50%)にする事もできる。(図⑥参照)

これをAMスクリーンにすると、ほとんど解読不能である。その印刷テストは行っていないので、RIP処理後のビューアー画面で確認頂きたい。

また、マイクロ文字(0.8pt)も印刷可能である。(図⑦参照)

ちなみに、日本のお札にも、ほぼ同じサイズでNIPPONGINKOの文字が入っている。