印刷界 2010年11月号

特集 ワークフローを円滑にするCTPシステム

高品質なシール印刷が可能に樹脂凸版用CTPシステムを活用

これまで凝ったデザインでクオリティーが求められるシールは、凸版印刷(レタープレス)では生産が難しいと考えられてきた。ところが、近年印刷機の精度が向上し、さらに、CTP版の品質が良くなったことで、ルーペで見てもオフセットか凸版か判別ができないほど高品質なシールが増えている。㈱フナミズ刃型製版は、他社に先駆けて2007年、エスコアートワーク社製の樹脂凸版用CTPシステム「CDISpark2120」を導入し、より綺麗な印刷ができるシール印刷用樹脂凸版を製造している。細かな文字やグラデーション、写真など高い再現性の版を提供することで、シールラベル業界に貢献している。従来の樹脂版でも中間濃度部分はデータを補正することで、ある程度オフセット印刷に近い濃度を表現することができたが、ドットゲインが大きいハイライト部分の再現性は非常に難しかった。とくに、1%のアミ点を実際に印刷すると5〜10%相当になり、グラデーションが自然に消える部分などはどうしても境目が目立ってしまうなど課題があった。

凝ったデザインの増加 フルカラー化の加速

一方で、 DTPアプリケーションで簡単にドロップシャドウやグラデーションが使えるようになり、デザイナーが好んで取り入れるようになったことで、凝ったデザインのシールが増えてきた。さらに、シールのフルカラー化も加速した。そのため、高品質が要求されるシールはオフセット印刷に流れてしまうこともあったという。
しかし、日本のシール業界は凸版印刷が主流であったため、これまでのシステムを活用した高品質な印刷を求める声が強くなってきた。このような背景から、画像を正確に再現できる樹脂凸版用 CTP版が注目を集めた。

樹脂凸版でオフセット並みの高品質な印刷が可能に

「印刷機の精度の向上とCTP化により樹脂凸版でもオフセット印刷並みの高品質な印刷が可能になった。とくにグラデーションやカラー写真の再現性に大きな変化をもたらしている」と木原社長。

アナログ版はプレートの上にフィルムとバキュームシートが重なるために露光時の光が拡散し、過大なドットゲインを引き起こしていた。また、フィルム各層間のホコリがボケやヌケの原因ともなっていた。

CTP版では樹脂版上のブラックレイヤー層に直接描画することで、露光時にフィルムやバキュームシートが不要で、光の拡散する要素が少ない。さらに、露光時に空気に触れているため、酸素による硬化阻害が起き、本来硬化してほしくない部分は硬化されないというメリットもある。これらの理由から、凸版印刷によるドットゲインは、CTP版で格段に改善されるようになった。

凸版の特徴を活かしたメリハリのある印刷

また、CTP版は凸部分が理想的な形状なので、つぶれにくく、細かな文字や線もシャープに再現可能。凸版の特徴を活かした、メリハリのある印刷ができる。

シール印刷ではデータをそのまま製版に使えることは少ない。データの補正や加工が非常に重要で、アミの濃度をはじめとするさまざまな調整が不可欠だという。まさに長年の知識と経験が必要となる。

木原社長は「データ加工は基礎が大切。最近の製版ソフトはかなり便利なものもあり、優秀な製版技術者が使うと格段に効率が上がる。だが基礎がわかっていないと使いこなせない。このデータのまま印刷するとどうなるのかを予測することや、何をするとそれが

改善できるのかをしっかり理解することが重要」と話す。データを正しく補正できる同社には印刷会社からデータ加工の依頼も多い。

高まる色への要求デジタルカラープルーフを活用

これまでシール業界ではCMYKで刷られたものは少なく、特色を1色〜3色使ったシールが主流であった。しかし、近年、機械と版の質が向上したことでフルカラー化が加速し、品質や色への要求が高くなっている。

そこで、同社ではジャパンカラーをターゲットにしたカラープルーフ出力や凸版印刷の各条件別(印刷機、印刷基材、版材など)のプロファイル作成サービスを提供している。

シール印刷業界でも「何に色を合わせればよいか」「このデータで印刷するとどのような色になるのか」といったことで困っている会社が多いという。同社ではデジタルカラープルーフの設備を完備し、印刷をシミュレーションしたプルーフを出力可能だ。

刃型と製版の両方を強みに 品質向上・効率化に貢献

1980年、刃型の製作所として創業した同社。顧客の意見を素直に取り入れ、新しいことに果敢に挑戦してきた。 1984年にゼンマイ刃のベース板をカットするためにレーザー加工機を設備した。(当時のシール用の刃型では糸ノコによる加工が主流であった。)また、1993年からは製版にも事業を拡大。 2001年にはフレキシブルダイの製造を開始。 2007年、他社に先駆けて樹脂凸版用 CTPシステムを導入した。

刃型と製版の両方を強みとする会社は珍しいという。顧客にとっては、刃型と製版の注文が一度でできる上に、それぞれを別の会社に発注すると生じやすい型と版のズレも防げる。徹底した品質管理のもと、校正抜き機などを活用し、品質向上・効率化に貢献している。

同社ではCTP版の他に従来のアナログ樹脂版、平圧用や箔押し・エンボス用の亜鉛、銅などの金属版を製造。刃型ではゼンマイ刃とフレキシブルダイを手がけている。

ゼンマイ刃は1本の刃を曲げてつくられるが、同社ではつなぎ目が開いたりずれたりするのを防ぐため、スポット溶接をしている。さらに刃型の高さムラをなくすためウラ板に精度の高いアルミ板を使用するなど、常に工夫、改善をかかさない。このため、高精度な抜き加工を実現し、印刷会社からの評判も高い。フレキシブルダイは複雑な形状や寸法精度に対応するためエッチングの後、マシニングセンターで刃先を研磨している。そのためPETやユポも問題なく抜け、また仕上げにフッ素コーティングをしているので、糊も付きにくい。

また、小ロット、サンプルシール作成も好評だ。ホワイトインキが印刷できるインクジェットプリンターを導入し、透明メディアにも対応。紙基材のメディアにはフルカラーレーザープリンターを活用している。いずれも、デザインから印刷、ラミネート、カットまで可能だ

ネットワークの中心となる〝ハブ〟として

木原社長は、「これからも刃型、製版、データ加工などさまざまな顧客ニーズに柔軟に応えていきたい。さらに、業界でネットワークの中心となる〝ハブ〟の様な存在になれたら幸せですね」と話している。今後も同社は常に新しい技術を取り込み、業界を牽引していく考えだ。