印刷情報 2022年10月1日号

独自のアイディアで新しい価値を創造,高品質の刃型作成と製版に特化したサービスを提供するシール・ラベル印刷のパートナー企業

(株)フナミズ刃型製版 社長 木原一裕氏
1980年にゼンマイ刃型メーカーとして創業以来,株式会社フナミズ刃型製版は,顧客が抱える課題に常に寄り添い開発・改良を重ね,顧客の高い支持を得てきた。
高品質の刃型,印刷時の再現性を考慮した製版,オンデマンドシール印刷のすべてを通し,シール印刷・活版印刷の顧客に安心と満足を提供している。

印刷元気企業の条件 連載第310回 ルポ・原稿=田中肇

SEから転身して事業承継

1980年(昭和55年),船水信徳氏(現社長の木原一裕氏の義父)が東京•練馬区に船水刃型製作所を創立した。船水氏 は,それまで働いていたシール会社から独立する際に「シール 印刷だけはやるなよ」とくぎを刺された。
そこで,「シール印刷で使われる刃型をやろう」と刃型製造に取り組んだのである。

以来,刃型(ゼンマイ刃 ・フレキシブルダイ)と製版(樹脂版・亜鉛版・フレキソ版),オンデマンドシールを自社生産で一括提供し,そのサービスはデザイン,版下作成にまで及んでいる。

木原氏は学校卒業後,コンピュータ会社で働いた後,「これからはコンピュータの時代だ」と考えて, 数人の仲間と SE(システムエンジニア)の会社を立ち上げた。
その頃,職場で知り合い結婚したのが船水氏の次女であった。
早速,船水氏からフナミズ刃型製版の事業継承の話があった。
当時,同社はパー トを含め社員数人という町工場で,業種も刃型製造という,木原社長にとって未知の分野だ ったため,すぐに応えることができなかった。
その後何度も要請があり,「もし会社を継いでくれないなら廃業する。 会社は好きなようにやっていい」と口説かれ,1993 年に入社した。船水社長と木原氏とパート 4~5名でのスタートであった。

木原氏は,新しい分野で懸命に学び,目の前の仕事に全力を尽くした。
経験を積んで業務に精通していく中で会社の実務を取り仕切るようになり,2003年社長に就任した。
この時には,社員は十数名になっていた。

シール・ラベル用サービスに特化

その後,フナミズ刃型製版は大きく発展し,現在はシール・ラベル印刷会社のパートナーとして製版と抜型作製に特化した以下のサービスを提供している。

①製版

シールの印刷方式で最も用いられる凸版印刷用の製版に特化し,樹脂版と亜鉛版を作成している。
凸版印刷の特性を熟知した上でのデータ加工を得意としており,同社の版を使用した印刷のきれいさはシー ル業界でも評価が高い。
また,顧客ごとに専任のDTPオペレータを配置し,デー夕加工の内容を作業者本人と打ち合わせて進行できるのも同社の特長である。

②ゼンマイ刃

シールの抜き加工は,セパレーターを抜かずに上紙だけを抜くハーフカットという加工があるため,刃型には高い刃高精度が求められる。
同社の刃型は,熟練の職人が高い精度で刃物の曲げ加工を施すことに加え,刃物を抑える役割の裏板にアルミを採用することで刃高ムラを大きく抑制している。

③フレキシブルダイ

同社のフレキシブルダイは素材にHRC硬度50の特殊炭素鋼を用いることで高い耐久性を実現している。
また,フッ素コーティング加工により,刃への糊の付着が軽減できる。

④ビク型(トムソン型)

2021年から板橋工場で同社の新たな事業としてビク型の作製を開始した。
同社のビク型はシール・ラベル業界で使用されることが多く,ハーフカットでの打ち抜き加工のしやすさを追求している。

⑤エコマグ®・エコマグa

2012年に特許を取得した自社開発の刃型固定システム。
両面テープではなく,強力な永久磁石「ネオジム磁石」を使用して刃型を固定するため刃型のセットが簡単にできる。
さらに磁石の底面には特性のすべり止めテープを貼ることで横滑り耐性を強化した。

⑥オンデマンド印刷

最少1枚からシール・ラベル印刷が可能。
シールを使用する場所,目的を相談しながら作製できる。
一般的なシー ル印刷機では難しいA3サイズのラベルや900x300mmの長尺の印刷も可能。

フナミズ刃型製版の強み

フナミズ刃型製版は,1980年の創業以来,顧客の利便性を追求し,様々なサービスを提供しており,シール・ラベル印刷の業界で大きな強みを持っている。

①豊富な製品ラインアップ

オンデマンドシール印刷によるサンプルラベルの作成から刃型作製,製版まで自社内で行っている。
データの入稿先をまとめることで印刷前工程で発生するミスやトラブルを軽減させることや,製品発送時の送料を節約させることが可能になる。

②トータルコストの削減に貢献

何より顧客から評価されているのは各製品の標準化された品質の高さにある。
ムラの少ない刃型や,色やデザインの再現性が高い版は印刷・加工にかかる時間やロスを削減し,一つの仕事におけるトータルコストの削減に貢献する。

③知識と経験に基づく的確な提案

顧客から提供された価値ある情報や問題解決のための技術を社内で共有し全社の知識として蓄えている。
それによりシール・ラベル印刷,凸版印刷や抜き加工における問題へ様々な角度から課題解決への提案をし続ける。

④顧客のニーズを形にする開発力

顧客との話の中から真に求めているものを想像し,それをカタチにする開発力こそが同社の一番の強みである。
刃型のみを作っていた会社が製版を始め,フレキシブルダイ,亜鉛凸版,オンデマンドシール印刷とサービスの幅を広げていけたのも,顧客のニーズに応え続けてきた結果である。

SDGsへの取組み

フナミズ刃型製版は社会の一員であることをしっかりと認識し,同社のような中小企業でもできることを確実に進め,持続可能な世界の実現に向けてSDGsに取り組んでいる。

①人材基盤の育成

同社で働くすべての人に働きがいを見つけてもらえるよう,役職や役割に合わせた人事評価を導入し,個々の目標に合わせた社員教育に取り組んでいる。
また社内図書館の設置およびeラーニングの導入を行うことで,社員に学びの機会を提供するとともに社員のスキルアップ強化を図っている。

②環境を大切に

製版業務に関しては2007年に凸版CTP機を導入しフィルムレス製版を可能にし,2020年にはLED露光機を導入し,杜内のほぼすべての照明をLED化することでCO2の削減に努めている。
勤怠管理については,クラウドシステムを採用し,請求書の送付をオンライン化することで紙の使用量を低減し,使用する紙に関してはFSC認証のものを使い,未来の森林資源を守る。

③グリーンプリンティング認定の取得

「グリーンプリンティング認定制度」は印刷業界の環境自主基準として制定された「印刷サービスグリーン基準」を達成した工場や事業所が受けられる認定である。
同社の製版工程でもグリーンプリンティングの認定が受けられることを知り,「つくる責任」を自覚し,少しでも環境負荷低減に貢献できればという想いで,2022年3月に取得した。

④こども食堂の支援

社員へ提供しているコーヒーやお茶などのフリードリンクコーナーに,自社で作った募金箱を設置し,利用する際の募金を呼びかけ,「NPO法人全国こども食堂支援センター」へ寄付している。

⑤健康経営への取り組み

社員の維持・増進につながる環境づく り,健康意識を向上させるための施策を推進している。
2021年3月から取組みを始め,食事習慣の改善・運動習慣の推進,禁煙の推奨をはじめとした健康に関する様々な情報を提供し,実践を呼びかけている。

木原氏は,全国シール会社や機材メーカー48社以上からなるVIEPS(ヴィープス)という海外粘着紙の共同購買からスタートした会の代表をしている。
毎月勉強会や情報交換会を開催し,有益な情報を提供する場を設けているが,この会でもSDGsを積極的に取り上げている。

製版の売上の5割,亜鉛版が伸び

現在社員数は42名。内訳は以下となる。

社長,部長,営業…3名
ゼンマイ刃製造…8名
ゼンマイ刃データ…4名
ゼンマイ刃レーザーオペレータ…1名
フレキシブルダイのデータ・製造…4名
製版DTP…8名
検査,伝票入力…2名
樹脂版焼…2名
亜鉛版…3名
版下作成,デザイン…2名
ビク型…3名
オンデマンド印刷…2名

現在の年商は4億円で,その製品内訳は次のとおり。

製版(亜鉛版等)…50%
ゼンマイ刃…25%
ビク型…10%
フレキシブルダイ…10%
オンデマンド印刷…5%

この中で伸びている製品は,亜鉛版とビク型である。
同社の顧客は,全国のシール・ラベル会社だが,この業界の売上動向はどうか。
日経テレコンによると,以下のとおりである。
印刷業界の中心は出版に代表される「紙への印刷」だが,商品のパッケージやラベルなど「紙以外の印刷」も印刷業の一角を占める。
印刷用紙の需要低迷が続くのに対し,この分野は近年比較的好調に推移している。
経済産業省のエ業統計を見ると,「紙以外の印刷」は2019年の出荷額が前年比19%増の7,610億円だった。

同社の顧客は全国に及んでいるが売上では関東エリアが7~8割を占める。
木原氏は,東京都正札シール印刷協同組合に協賛会員として加盟しており,東北,大阪,九州の組合にも参加してフナミズ刃型製版としての会社の知名度向上に努めている。
現在のシール・ラベル業界の関心事は,原材料,特に紙の値上げ,SDGs活動への参画,他社の動向などで,地方の会社は東京の会社の最新情報を求めているという。

仕事を楽しみ,人生を楽しむ

木原氏は,もともと「仕事は楽しむものである。お客様に喜んでもらってお金を頂くのが仕事である」との考えがあった。
社長就任後,この考えを基に,企業理念,経営理念を制定した。

企業理念
お客様の仕事を楽に,楽しくし,仕事を楽しみ,人生を楽しむ

経営理念
フナミズ刃型製版は,
●独自のアイデイアで新しい価値を創造し,顧客満足度の高いソリューションを社会に提供します。
●お客様はもちろん,パートナー企業や従業員にとってもいい会社であり続けます。
●常に新しい事に堂々とチャレンジし続けます。

木原氏は,トップから見た会社の強みを3つあげる。
①お客様には,すべてお客様目線でアドバイスできる。
②従業員満足度が高く,それが自然とお客様に伝わっている。
③お客様に,刃型,製版のすべてのソリューションをワンストップで提供できる。

フナミズ刃型製版は,これからも顧客の困り事,要望を真摯に受け止め,問題解決型のものづくり企業としてその解決策を形にしていくことだろう。

一言集約 いい波を逃さない

木原氏は,週末にはサーフィンを楽しんでおり,サーフィン歴は15年ほどになる。海が混んでいる湘南を避けて,茨城,千葉の海で楽しむ。
沖から来る波を見て判断して,いい波を逃さないことがサーフィンのコツだ。
経営もサーフィンに似ている。
常日頃から世間の波をよく見ていて,いい波が来たらその波にうまく乗ることが,成功の要諦である。Catch the wave!

会社データ

社名:(株)フナミズ刃型製版(本社 埼玉県朝霞市)
社長:木原一裕(56歳)
社員数:42名
年商:4億円
主力商品:ゼンマイ刃製造,ビク型製造,フレキシブルダイ製造,エコマグ製造,レタープレス用製版,箔押用製版,版下作成,デザイン,サンプルシール作成,シール印刷用副資材販売
主力顧客:シール・ラベル印刷会社,一般印刷会社